栃木県栃木市「大豆生田商店」

具材は２種

看板が特徴的な店の外観

栃木駅（栃木県栃木市）から車で１０分ほど住宅地を進むと、県道沿いに目に入ってくるのが赤地に黄色い文字の大きな看板だ＝写真＝。

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大きく「じゃがいも入りやきそば」と書かれている。えっ、焼きそばにジャガイモ？

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ここは、栃木のご当地グルメとして愛されるじゃがいも入りやきそばの老舗「 大豆生田おおまめうだ商店」。

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文字通り、それが店の看板メニューで、具材はジャガイモとキャベツのみ。

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肉もエビも入っていない。並盛り４５０円。果たしておいしいのか。

名物「じゃがいも入りやきそば」

「おなかにたまるからか、この辺ではイモを入れるのが普通。家庭での作り方を店でもやっているのよ」。

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店を営む大豆生田トクさん（７９）は、当たり前のように言う。見た目はきわめてシンプルだ。

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だが、口にして驚いた。麺はもちもち、ぷりぷりとして、甘めのソースが適度に絡みついているが、なぜかそれ以上に奥深い味わいだ。

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「メイン」のジャガイモは、ほくほくとした食感がたまらない。

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麺を持ち上げるたびに、湯気とともに香ばしいソースのにおいが立ちこめる。

４０キロ皮むき

店で使われる様々なソース

おいしいはずだ。麺は地元、須藤製麺所（栃木市）の茶色い二度ぶかし麺を使用。

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いためるときに麺をほぐすのは単なる水ではなく、風味が出るように豚ひき肉をゆでてだしを取る。

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店を始めた約５０年前から変わらない作り方だ。

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ソースは市内と県内の複数のものを配合し、北海道のブランドイモ「 今金いまかね 男しゃく」を取り寄せる。

「具材が少ないからこそ、しっかりおいしいものを使っている。

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ソースは誰でも食べやすいように甘めにしているのよ」。

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トクさんの強いこだわりだ。

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メニューは、飲み物を除けば、焼きそばの「じゃがいも入り」と「いか・じゃがいも入り」、「いもフライ」の３種類だけ。

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ふかすジャガイモは、多い日にはフライ用と合わせて４０キロ以上に上り、早朝から夫の佐一さん（８２）と１個ずつ皮をむく。

元は駄菓子店

一夫さん（手前）、佐一さん（右奥）
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今でこそ、昼時にはサラリーマンや観光客でごった返すが、この風景が当たり前だったわけではない。

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トクさんは栃木市生まれ、栃木市育ちで、２４歳の時に佐一さんと結婚。

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嫁ぎ先の隣で義父が駄菓子店を営んでおり、トクさんが営業を引き継ぎ、焼きそばも販売するようになった。

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だから今でも店の名前は「商店」。

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「当時はどの町内にも一軒は駄菓子店があって、焼きそばを売っていたの」と振り返るように、商売相手は子どもが中心だった。

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周りは畑ばかりだったが、数年後、店の前に大きな県道が開通。

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「商機だ」と一念発起してコンビニ店を始めた。

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しかし、近くに大きなスーパーができ、客が流れた。

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今度はコインランドリーに転換したが、焼きそばの持ち帰り販売は区画を分けて続けた。

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時代に合わせて店は姿を変えたが、焼きそばをやめなかったのは、当たり前のようだが「お客さんが来てくれたから」。

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２０００年代後半に転機が訪れる。

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「富士宮やきそば」「横手やきそば」などのご当地グルメがブームに。

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いも入りやきそばも乗り遅れまいと、提供店が協力してＰＲ団体を作り、トクさんの店もメンバーに名を連ねた。

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イベントに出店したり、のぼり旗を作ったり。

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だんだんと注目が集まり、トクさんの店もテレビや雑誌で紹介されるとたちまち人気店になった。

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.「昔から同じことをしているだけで、こんなふうになるなんて思いもよらなかったよ。焼きそばをやめていたら、もう店をやっていなかったかも」

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焼きそば一本にするまでトクさんが一人で続けてきた店は、１０年から長男の一夫さん（５２）も加わった。

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ただ、地域全体では、いも入りやきそばを売る店は、後継ぎ不在で減っているという。

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一夫さんは「母の味を求めて来る人も多い。できるだけ変えずにやっていきたい」と話す。

トクさんは「続けられるうちは続けていきたいね。お客さんと話すのが趣味だからやめたら暇になっちゃう」と笑う。

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時代とともに店は変わったが、焼きそばはこれからも多くの人に愛され続けるはずです。